JTBへの挑戦

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JTB への挑戦 : 第五話

JTB というおおきな組織に、アウトサイダーの狙い撃ちという奇襲戦法で食らいついたネヲン、こんどは、正統派の社員たちの仕事の流れに寄生しようと目論んだ。あらゆる困難な場面で、全力で取り組み乗り切った明治の人たちの物語「坂の上の雲」が大いに役立った。

そんな魂胆を秘めたネヲンは、JTB の支店に入ると、まず、店内をキョロキョロとみまわした。そこで目についたのがパンフレットスタンドだった。どこの支店にもならべてあったが、とくに広い支店では、スタンドのジャングルのようであった。この時代は、「ペラ」と呼ばれた一枚物のカタログが主体でした。

パンフレットスタンド

湯の街ネヲン、ここにヒントがありそうだと、勘がはたらいた。

パンフレットスタンドから適当なペラを抜き出して、製作者は誰だ? 発行者は誰だ? 管理者はだれ? と、いろいろと考えながらながめまわした。

すると、裏面の下のほうに小さな字で「JTB 東京営業本部」と書かれた一行が目にとまった。さっそく、顔見知りの社員に「これって、このカタログを管理しているところ?」と尋ねると、答えはネヲンの予想通り「そうですよ」であった。彼氏、所在地をメモしてくれた。

JTB 東京営業本部ー1

JTB 東京営業本部は台東区の上野にあった。街は、上野公園の桜が満開となり、パンダ人気もともなって大賑わいであった。「犬も歩けば棒に当たる」というのには、幸運説と災難説があるそうだが、ここでは、歩きまわったネヲンに幸運に当たった。

上野のイメージ・パンダ

そこでは、梨本課長との幸運な出会いが待っていた。この梨本課長は JTB 内では、梨本三兄弟として有名であった。梨本課長はその三男で、二人の兄は JTB の北関東管内でそれぞれが支店長として活躍していた。そして、本人も間もなく支店長として転出していった。

梨本課長は気さくな人柄で、JTB の偉いさんと旅館の平社員という垣根がとれ遠慮がなくなると、なんでも思ったことをストレートにしゃべる性格のネヲンは、思ったままをハッキリと口にした。たぶん、梨本課長は組織の中でマンネリ化していたのだろう、そんなネヲンの言動が新鮮にみえたのか、「ネヲンちゃん、ネヲンちゃん」といって可愛がってくれた。

ある日、梨本課長は、酒10本付または5本付という「十兵衛さん五右衛門さん」という企画商品を作成していた。

ネヲンの顔を見て「オマエのところも参加しろよ」と誘ってきた。が、「これじゃあ~、儲からないからイヤだ! 酒1本付ならいいよ」とネヲンが答えると、「バカヤロー、この企画でそんなこと出来る訳ねだろう~」といったあと、「それもそうだよな~」のひと言で話が終わった。こんな気さくな性格なので、お付き合いはとても楽であった。

もう一つの楽しみもあった。時間に余裕があると、「坂の上の雲」のもう一人の主人公 正岡子規が暮らした子規庵のある根津、谷中界隈をブラブラと散策した。

JTB 東京営業本部ー2

ある日、ネヲンは、梨本課長に尋ねた。「うちの旅館で作った独自の企画商品(チラシ)を、支店のパンフレットスタンドに置いてもらえますか?」と。

「あゝ、いいぞ!」と、梨本課長は二つ返事で引き受け、さらに、「なんなら、俺のところへまとめて送れば、各支店に小分けして配送させるぞ」との思わぬ好意的な答えをもらった。

大会社の社員たち恵まれた環境にいるので、懐に入った者にはおおらかである。「大会社( JTB )は、ウチなんかみたいな小さなところ(旅館)は相手にしない」と、考えるのは誤りである。だが、これは窮鳥懐に入れば、という話ですから、まずは、しっかりとコミニュケーションを取る努力をしましょう。

人間関係の構築なんて、口でいうのは簡単だが現実的にはとても大変だ。しかし、世の中にはこんな作業をたった一晩、酒の席を同じくするだけで構築する天才もいた。

なンと、ネヲンの上司 ホテル アタガワの支配人である。支配人のそんな威力を目のあたりにしていたネヲンは幸運であった。自分はアリのように這いずり回って結果を出すしか方法がないと悟れたからである。良い指導者、良いライバルに恵まれたネヲンである。

チラシ、磯料理(優)コースと共に

ホテル アタガワの独自の企画商品(以下、チラシ)磯料理(優)コース が完成した。

湯の街ネヲンは、チラシを各支店へ直接配り歩く計画であっが、まずは、梨本課長の好意に甘えて、JTB 東京営業本部から各支店への配送をお願いした。このシステムにのれば、JTB の真面目な社員達は、自社商品だと錯覚してくれると思ったからである。

これは、見事に的中した。ネヲンがチラシを持って支店に出向いたころには、ほとんどの社員達がその存在を知ったいた。さらに、驚いたのは「磯料理(優)コース」の取り扱い説明及び手配方法が、各支店のコンピューターに入力されていたのである。さすが梨本課長! さすが大会社は、凄いと思った。

磯料理マル優コースのチラシ

さて、大企業の上意下達の凄さに驚いたネヲンであるが、これは、あくまでも周知徹底ということで、売り上げが保証されるということではない。

そこでネヲンは、売り上げアップを目指して行動を起こした。

ネヲンが、カウンターでチラシの束を見せながら、「支店のスタンプとスタンプ台を貸して」と頼むと、どの社員もけげんそうな顔をする。パンフレットやチラシにスタンプを押すのは、自分たちの仕事だと思い込んでいるからだ。

再度、スタンプを押すしぐさをしながら頼むと「いいですよ、私がやっておきますよ」と、いいながらも取り出す。すかさずネヲンは、笑顔で「いいよ、いいよ、みなさんに手間をかけさせては申し訳けありませんから」と、いいながら、手際よくポンポンと、「お申し込みは」の空欄に濃紺のスタンプを捺す。

ネヲンの魂胆は、JTB のカウンターでチラシにスタンプを捺す旅館の営業マンなんて前代未聞の出来事である。誰でも、もの珍しいものには興味がわく。そんなもの見高い社員たちに、磯料理(優)コースを、再度、認知させるためであった。

余談だが、このとき初めてスタンプ台が不要なシャチハタを知った。便利なものが出来たな~と思った。

この話には続きがある。ネヲン、最後まで人の良さそうな営業マンのフリをして捺し終わったチラシの束を両手にもって、パンフレットスタンドを目で指しながら、「隅っこの方に入れときますから」と、動き出す。「そこまでしなくても」の、声を聞きながしながら…。

クライマックスである。誰がパンフレットスタンドの片隅になんかに置くものか、と思いつつ、一番目の付きそうなところへ、そ~っと差し込む。ある時は、他のチラシを押しのけて…。

営業マンには、タイムリーヒットは打てても、試合を決める決定打は打てない。なぜなら、会社には9回の裏がないからだ! さて、さて、また歩き始めよう!

おわり

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